登山に必要なエネルギーは「自重×5×行動時間」
ランニングやスイミングに比べて激しい動きがない分、運動量が少ないと思われがちな登山。しかし、実際は非常にエネルギー消費の多いスポーツです。
登山に必要なエネルギーの算出法は、鹿屋体育大学・山本正嘉教授の研究によると「自重(体重+ザック)×5×行動時間」といわれています。たとえば体重60kgの方が10kgのザックを背負って6時間の登山を楽しむ場合「70×5×6」で2100kcalものエネルギーが必要になるのです。10時間の歩行ともなれば、じつに3500kcal!
まずは「登山はエネルギー消費の多い運動」と認識しておいてください。
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エネルギー不足になると
いわゆる「バテる」という状態、そのほとんどはエネルギー不足(≒低血糖)が原因となっています。転倒や滑落などの事故も、元をたどれば低血糖による判断力不足、注意散漫が引き起こす場合が多いといわれています。この低血糖を防ぐ鍵が、行動食によるエネルギー補給なのです。
日帰り登山などの場合、山頂でとる昼食までなにも食べない、という登山者も多いのではないでしょうか。これは、とてもバテやすい歩き方なのです。
とはいえ、6時間の登山中に2100kcalを摂取するのは大変です。まずは朝食をしっかりとり、休憩ごとに行動食をつまんでください。
休憩の目安は人それぞれですが、30分から1時間の間に一度、安全を確保できる場所で休みをとりましょう。そして、その都度、行動食を口にしてください。
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快適登山のもうひとつの鍵、水分補給
かつて、スポーツや登山の世界では、活動中の水分補給はタブーとされていましたが、これは完全な誤り! 脱水症状とそれに起因するバテを防ぐため、登山中はこまめに水分を補給しましょう。水分摂取の目安も、「自重×5×行動時間」の公式があてはまります。体重60kgの方が10kgのザックを背負って6時間の登山を楽しむ場合、同様に2.1Lの水分が必要となるのです。
水分摂取は、渇きを覚えてからでは遅いとされています。休憩はもちろん、すれ違いでの通過待ちなどの時間を利用して、積極的に水を飲んでください。ハイドレーションシステムは便利ですが、そうでなくとも、ザックのサイドポケットにボトルを入れるなどして、すぐに水分補給ができるように工夫してください。発汗とともに失う電解質、ナトリウムを補給してくれるスポーツドリンクを飲むのも効果的です。
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優れた行動食とは
行動食は五大栄養素-糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラル-をバランスよく満たしていることが大切です。それらの栄養素を満たしたうえで、さらに求められるのが「食べやすさ」なのです。
真夏や縦走などのハードな登山では、「口にしやすいもの」「好きなもの」でないと、疲労した体が受け付けないことがあります。先にも記したように、とにかく食べることがとても大事なのです。きつい登山で休憩ごとに行動食をとるためには「疲れたときも無理なく食べられる、ご褒美的な嗜好品」を用意しておくことがとても大切です。
(文=麻生弘毅)