新しい映像プロジェクトが幕を開ける

ラディカルネイチャリング・コンテンツステーション(RADICAL NATURING CONTENTS STATION/ラナコスタ)は、日本人初の14サミッター・竹内洋岳がプロデュースする、既存のメディアを離れた新しいスタイルの発信基地です。

クライミングをはじめとしたさまざまなアウトドア・アクティビティ、自然環境、動植物、文化など幅広いテーマをもちながら、先鋭的かつリアルで洗練された映像を制作・発信していきます。

スポーツとして文化としてのクライミングを応援するゴアと、それを表現し続けようとしている竹内洋岳。両者の思いが、ラナコスタの第一弾ムービー「The Real Climbing」に結実しました。記念すべきこの作品は11月29日24時から、web上で公開されています。

(構成・文=柏 澄子)

The Real Climbing

日本のアルパインクライミングがここにある

『The Real Climbing #001』の撮影は、北アルプスの滝谷で行なわれた(画像提供:www.ranacosta.net&The Real Climbing 2013)
クライマーはヘルメットに小型カメラを装着。クライマーの目に写るものを収めるとともに、荒々しい息遣いや歓喜の叫びも収録されている(画像提供:www.ranacosta.net&The Real Climbing 2013)

「これは、日本のアルパインクライミングのプロモーションムービーです」

日本人初の14サミッター・竹内洋岳の新しいプロジェクトが始まった。「アルパインクライミングのプロモーションムービーを創りました。これを観た多くの若者たちに、アルパインクライミングってかっこいい、と言わせたい。憧れてもらいたい」。そんな思いで創ったのが『The Real Climbing』だ。

これまでの山岳ムービーは、ハウツーものや雄大な山岳景観を写しだすもの、また登る人に焦点を当てたものが多かった。しかし『The Real Climbing』は違う。アルパインクライミングそのものを描いた作品である。クライマーが岩壁と対峙するときの精神性や、アルパインクライミングが繰り広げられるロケーションの魅力を表現し、リアルな姿を写しだしている。そのために竹内は、「既存のメディアを離れ、新しい発想で創った」という。既存のメディアや作品が行なってきたこと、その限界を越えようとしたのだ。

また、竹内にはもうひとつの目的がある。それは登山に関わるプロフェショナルたちが、健全に、そしてポジティブな働きをし、才能を惜しみなく出せる場を作ることだった。プロフェッショナルを育て、彼らが活動する場を作る、ということでもある。

プロ・アルパインクライマーとして登場する花谷泰広、アルパインクライマーの今井健司は、山岳ガイドであるが、今回は登って表現する純粋なクライマーという役割を担った。クライマーとして最高のパフォーマンスを発揮してほしい、クライマーとしてアルパインクライミングを表現してほしい、という竹内からの依頼だ。そして、上質な映像を創りあげてくれるであろうという信頼のもと、『icon』などでスキー、スノーボードなど雪の世界を描いてきた映像作家の関口雅樹にも、ラブコールが届いた。ほかにも、彼らを支えた山岳ガイド、アシスタント、山岳ジャーナリスト達が集い、それぞれの専門性から能力を出し合った。

舞台となったのは、滝谷。ダイヤモンドフェースからドーム西壁へと繋ぐラインだ。花谷が、「日本の滝谷」と表現するこここそが、日本のアルパインクライミングを描くに相応しい場所だった。

(構成・文=柏 澄子)

※The Real Climbingは下記URLからご覧いただけます。

http://www.ranacosta.net/

Postscript あとがき

前列右より竹内洋岳、今井健司、花谷泰広、柏 澄子。中列は塩谷晃司。後列右より松田好弘、廣田勇介、荒川武大、関口雅樹、杉坂 勉(画像提供:www.ranacosta.net&The Real Climbing 2013)

別れ難かった北穂高岳山頂

滝谷を撮影するには、このうえない天候だった。9月中旬、台風一過とともに私たちは入山した。終始晴れ。滝谷特有のじめっとした雰囲気もなく、岩は乾いていた。風もほとんどなく、長時間カメラを構える者にとっても寒さは感じられなかった。ときおりガスがたちこめることもあったけれど、すぐに晴れる。最高の条件に私達は「少しは雲をわかせて、滝谷らしくしてよ」と、気象予報を依頼した猪熊隆之さんに冗談を言ったものだ。

今回の撮影には、山のプロフェッショナルが集まった。竹内が本プロジェクトをスタートさせた意図は、既存のメディアを離れて、リアルで本質的なものを追求し、表現していくことだった。さらにもうひとつの要素として、山のプロフェッショナルを育て、活躍できる場を作ることも含まれていた。それは見事に実現できたと、私は思う。

撮影チームはまるでひとつの登山隊のようだった。いいクライミングを魅せたい、いい映像を創りあげたいという共通目的にむかって、互いに尊重し合い、それぞれの能力を発揮した。こんなにもポジティブな仕事は、気持ちがいい。7時間に及ぶ撮影のさなか、クライマーはもちろんのこと、撮影者もそれをサポートする人たちも誰ひとりとして緊張の糸が切れなかった。ときには息をのみ、ときには歓声を上げ、ふたりのクライミングを見守った。

充実した時間を過ごしたあとは、別れ難い。翌朝は下山するもの、キレットを越え南岳へと向かい、滝谷の遠景を撮影するものに分かれた。南岳へ向かった関口は、夕刻、飛騨側からキレットを越えて流れ込む滝雲をカメラにとらえた。その向こうに西日に輝く北穂高岳が望める。翌日は滝谷出合から、威風堂々とした滝谷の岩壁を撮影した。最後まで、天気が味方してくれたのだ。

しかし、それからが大変だった。編集・制作にかけた時間は、約2ヶ月。花谷をはじめほかのメンバー達も、関口と廣田が撮影した素材をチェックしたり、また制作途中の映像を見て、意見を出し合ったりもした。しかし、最後は関口の手にかかっている。映像作家の任務ではあるが、まったく孤独な作業に違いない。

出来あがった作品は、クライマーの息遣いが伝わり、岩壁と対峙する心の襞まで見つめた緊張感のある映像だ。それでいて、優しい。自然の美しさや、滝谷がもつ特有の岩壁の質感が、陽光が傾きを変えていくなか、みごとに表現されている。

いまでも思い出す、別れ難かった北穂高岳の山頂。しかしこのプロジェクトは、1作目を世に送り出して、ようやくキックオフしたのだ。これからである。私たちは、次作品に向けてすでに歩きはじめている。

(構成・文=柏 澄子)

※The Real Climbingは下記URLからご覧いただけます。

http://www.ranacosta.net/

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