インプレスグループで山岳・自然分野のメディア事業を手がける山と溪谷社(所在地:東京都千代田区、代表取締役関本彰大)が、山溪叢書の第4巻として、平山三男氏著『疲労凍死/天幕の話.』を刊行しました。

豊富な登山体験と精妙な筆致が紡ぐ、「遭難」を素材とした読み応えある中編二編を収録。

  • 2002年『山と溪谷』(山と溪谷社)に連載された中編小説「疲労凍死」に、2000~2001・2003年『山の本』(白山書房)に連載された中編小説「天幕の話」を併わせた、読み応えある一書となっています。
  • 「疲労凍死」は、1955年5月末に那須連山で起きた高校生6人が疲労凍死した遭難をもとにした作品。
  • 「天幕の話」は、ある登山者の遭難を巡る怪異譚で、本編のほか、外伝として「桃井の恋」を付した。
  • 著者の平山三男氏は、女子高校生の海外登山で話題となった立川女子高校に奉職後、国文学者として大学に勤務、川端康成の研究者として知られています。
  • 平山氏はこれまで、川端関連の研究書を上梓していますが、小説の単行本は今回が初めてです。

 

■「疲労凍死」について

1955年5月末、高校山岳部学生15人と引率教諭1人が那須連山須立山付近で遭難。懸命の救助にもかかわらず、高校生6人が疲労凍死する遭難が発生しました。現在に比べれば装備の質も低く、強い寒波に襲われたとはいえ、中級山岳の春山で体力のある高校生が6人も遭難したのは何故か。もはやわかり得ぬその様子を、人々の心を、小説という形を借りて、著者・平山三男氏が描きます。半世紀の時を経た現在でも、急激な寒波の襲来によって登山者が疲労凍死する遭難は発生しています。古い遭難事件をもとにした小説ですが、現代にも通ずる作品であるといえます。 

 停滞場所を出発してから、一年生には替わるがわる三年生が付き添って歩行を助けてきた。隊の前進を止め、篠原が近づいて間近から保志の顔をのぞき込んだ。保志の目の焦点が合っていない。
「保志! しっかりしろ」
「……はい」
 返事は弱々しい。保志の唇を雨が伝った。血の色は失せて白い。
「名前、名前、言ってみろ」
「保志……芳雄」
「何歳だ?」
「十六歳」
「今、どこにいるかわかるか?」
「……」
「どうした? 今どこにいるんだ。何してるんだ」
「わがんね」
「山にいるんだよ。しっかりしろ」
 保志は力なく頷いた。篠原は容易ならぬ事態だと胸が痛んだ。まわりにライトを向けると、座り込んで眠ろうとしているように見える者もいる。とにかく坊主沼まで行くことだ。旭岳南西の樹林帯に入れば少しは風雨をしのぐことができる。平田たちを捜すのはそれからだ。
「よし! 前進! 気をしっかり持て! もうすぐだ。三年生、しっかり頼むぞ!」
 篠原は保志を抱きかかえるようにして立ち上がった。

(「疲労凍死」ルート探索より)

 

■「天幕の話」について

ネパール・ヒマラヤのギャチュン・カン登頂の訓練として、冬の八ヶ岳で露営をしているふたりの登山者、橋本と桃井。キャンドルが照らす天幕の中で、ふたりは冬山の遭難にまつわる記憶を語り合う。那須連山・朝日岳付近で滑落した単独行者、北八ヶ岳の幕営地で裸で錯乱した挙げ句死んだ男、北アルプス東鎌尾根で滑落した大学生、谷川岳・中ゴー尾根で滑落した社会人山岳会会員、北八ヶ岳の稜線で道迷いの末身動きできなくなった男性登山者。天幕の話に誘われるように、遭難者たちの魂が集まってくる。やがて夜が明けて、驚愕の真相が明かされる。本編のほか、外伝として「桃井の恋」を付しました。

 仲間との幕営は山の楽しみの一つである。
 ネパール・ヒマラヤ、クーンブ山群。空気は薄く、天幕の中は凍りつく。
 カナディアン・ロッキー。猛烈な吹雪の中での停滞。
 北と南のアルプス、八ヶ岳そして尾瀬、雲取。幕営の想い出はつきない。
 天幕の中では極限状況だからこそ笑い話をすることもある。
 静かな夜を背景に己の信念を語り、人生を見つめることもある。
 撤退か、続行か、登山を巡って激論することもある。
 こうした語り合いを「天幕の話」という。
 そして山は人知を越えた存在である。
 山の中では下界では知り得ない怪異に巡り会うこともある。
 天幕の中では当たり前に聞こえるそうした怪異も下界に下りては通じないかも知れない。
  「天幕の話」は山仲間の心に秘められる。
 この物語はそうした山で見聞きした怪異を天幕での話に基づいて記したものである。
 不断、下界では耳にすることのないこうした「天幕の話」に耳を傾けてほしいと願う。

(「天幕の話」序章より)

 

平山三男氏 著 本格山岳小説『疲労凍死/天幕の話』■平山三男 ひらやま・みつお プロフィル

1947年5月5日、栃木県東那須野生まれ。国文学者。大学院修了後、立川女子高等学校教諭となり、同校山岳部のヒマラヤ・ゴーキョ登山の体験を『ひびけ笛(ムラリ)ヒマラヤに 立川女子高校山岳部ヒマラヤ遠征同伴記』(1979年 栄光出版社 2003年 『ヒマラヤの青春 立川女子高校遠征隊同行記』と改題、 平凡社ライブラリーに所収)にまとめた。カナディアンロッキー・ツインズ登山に参加後、立川女子高校を退職、関東学院大学文学部などで講師、現在は東洋大学文学部講師。川端康成とその文学を研究し、『今、ふたたびの京都―東山魁夷を訪ね、川端康成に触れる旅』(2006年 求龍堂)、『川端康成と東山魁夷 響きあう美の世界』(共編著 2006年 求龍堂)など、編著書がある。

本書について
書名: 『疲労凍死/天幕の話』
著者名:平山三男
価格:1,785円(税込) 
体裁:小B6判・上製・416ページ
発行日:2009年10月1日(配本9月15日)

 

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1930年創業。月刊誌『山と溪谷』を中心に、国内外で山岳・自然科学・アウトドア・旅行・スキー等の分野で出版活動を展開。さらに、自然、環境、エコロジー、ライフスタイルの分野で多くの出版物を展開しています。

 

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