インプレスグループで山岳・自然分野のメディア事業を手掛ける株式会社山と溪谷社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:川崎深雪)が2018年9月に出版した『ニホンオオカミの最後』(遠藤公男著)で紹介された「狼酒」(おおかみざけ)の中に残っていた骨がDNA調査の結果、ニホンオオカミのものであることがわかりました。

【狼酒とは?】

 「狼酒」は、『ニホンオオカミの最後』の著者遠藤公男氏が昭和53年(1978年)、岩手県大槌町の民家で発見したものです。江戸時代に、「狼の切り取った骨肉の一片をカメに入れ、塩水を加えて心臓の薬とした」(同書より)ものを代々秘薬として受け継がれていたと考えられています。
 今回、遠藤氏が、その中に残っていた骨を岐阜大学名誉教授で総合研究大学院大学客員研究員である石黒直隆博士に分析を依頼しました。調査の結果、この骨がニホンオオカミのものとわかりました。
 このように、狼酒の発見から40年の時を経て、この酒が確かにニホンオオカミの骨狼を漬け込んだものであることが、最新科学で判明しました。


発見当時の写真。このカメに狼酒が残っていた。(写真=遠藤公男)


カメの中に残っていて今回分析をした骨(写真=石黒直隆博士提供)


『ニホンオオカミの最後』 遠藤公男著 山と溪谷社刊行 定価=1600円+税
http://www.yamakei.co.jp/products/2818230090.html

【石黒博士のコメント】

今回は、2回ほど骨を削ってDNA分析をしました。骨の形態を壊さないように骨の深部から骨粉を採取してDNA分析を行い、ミトコンドリア(mt)DNAを増幅することができました。遺伝子の配列からして、これまで東北地方で見つかっているニホンオオカミの資料(根付や頭骨)と同じ配列でした。従って、東北地方にひろく分布していたニホンオオカミが狼酒に使われたものと思われます。

【調査手法と結果】
DNA分析手法:
①DNAの分離:資料より骨粉を採取、0.5M EDTAによる脱灰、脱灰後の骨試料をプロテネースK処理にて除タンパク後、DNA液を濃縮・精製してDNA液を得た。骨表面から抽出したDNA液(DNA液番号:JW290)からでは増幅が得られなかったので、骨深部から抽出したDNA液(DNA液番号:JW2902)より増幅を行った。

②mtDNAの増幅と配列の決定:mit44とmit52にてmtDNAのD-Loopを増幅し、塩基配列を決定した。 (参考論文: Zool.Sci.33:44-49,2016)

DNA分析結果:
決定したmtDNA配列は215bpであり、8bpの欠失が存在した。また、過去に岩手県下でみつかているニホンオオカミ(JW271、JW286、JW289)の215bpと同一の配列を示した。   

総合判定:
骨試料は形態的にはイヌ科動物の左坐骨結節の一部であり、mtDNA分析の結果、ニホンオオカミのものと判明した。 

記載時:2018年12月22日

分析者:石黒直隆(岐阜大学名誉教授、総合研究大学院大学客員研究員)

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