著者 | 石塚 徹著 |
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発売日 | 2017.11.13発売 |
販売価格 | 1,540円(本体1,400円+税10%) |
鳥がどんなキモチで歌っているのか、歌う鳥のキモチに興味ありませんか?
鳥を識別や撮影の対象としてだけでなく、何をしているのか「解釈」しながら観察するのは実に楽しいものです。
※本書に付随する鳥の音声動画は、以下ページ下方にある「関連情報」から参照ください。
品種 | 書籍 |
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商品ID | 2817230080 |
ISBN | 9784635230087 |
ページ数 | 296 |
判型 | 四六判 |
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鳥がどんなキモチで歌っているのか、歌う鳥のキモチに興味ありませんか?
鳥を識別や撮影の対象としてだけでなく、何をしているのか「解釈」しながら観察するのは実に楽しいものです。
本書は「歌う鳥のキモチ」に焦点を当てて、「鳥がなぜ歌うのか」「歌に込められた鳥のキモチ」を探っていく内容です。
歌は歌い手と聞き手がいてこそ成り立つ社会行動なので、歌に注目することで、鳥(小鳥)の社会、私生活が浮き彫りにされていきます。
第1章では「鳥の歌」について誰もが思う素朴な疑問(「春になると歌い始めるのはなぜ?」「夜明けに歌うのはなぜ?」「なぜ、ものまねしたい?」など)をひとつずつ解いていきます。小鳥の歌のさまざまな切り口・視点を紹介し、歌う鳥の「キモチ」がわかるようなります。
第2章はノビタキ、キセキレイなどを題材に、第1章で概観したことを実証、打ち破ろうとした著者の最新レポートです。キセキレイで個体識別を行って行動観察したイワオとピンコの夫婦の話など、生き生きとした小鳥たちの物語が展開されます。
第3章「歌う鳥の私生活」は、本書のメインディッシュです。歌声のレパートリーで個体識別されたクロツグミたちが、実にユニークで面白いドラマを見せてくれます。
第4章では、ビギナーを対象にした聞き分けの話や、歌のレパートリーによる個体識別方法を紹介しています。
鳥の「キモチ」や私生活、いきものの社会に興味関心のある方には必ずや楽しんでいただける内容です。
※本書籍内で紹介されている鳥の歌声つき動画はこちらからご覧いただけます。http://yamakei.co.jp/tori/index.php
●内容サンプル
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第3章22 猛レッスンでレパートリーを全とりかえした「レモン」
小鳥たちは、生後2カ月くらいまでに父親などの歌を聞き覚えるが、それは脳神経が発達する翌年まで、正常に再生できない。真夏にたどたどしく、というか、まったく歌らしくもない、へんてこな声を出している幼鳥もいる。
親の手を離れて自由気ままに暮らしている幼鳥たちが、真剣に歌っている成鳥オスの傍へ、さながら研修のように集まっていることがある。歌っているオスは迷惑そうにも見えるが、幼鳥たちをなわばり荒らしと思って本気で追い払うほどではない。幼鳥たちにとっては、単に同種の歌に対して興味津々な時期なのであり、無意識ながら、来年以降、メスやなわばりを得るために重要な学習の場なのだろう。幼鳥群の中に、メス幼鳥と思しき個体が交じっているのも面白いが。
一方、インコなどを別として、成鳥は新しく歌を覚えないと思われがちだが、学習能力がまったくなくなるわけではないらしい。覚えた歌に可塑性がある鳥や、年々レパートリーが増える鳥は発見されてきているが、その強烈な例をクロツグミでも目の当たりにした。
そのオスは、足環の色がライトグリーン(L)、モーブ(藤色=M)、オレンジ(O)だったので、その頭文字から「レモン」と呼ぶことにする。レモンは見るからに幼鳥の羽色を残した満一才の若鳥だった。彼は4月下旬の渡来当初、調査地であるF森の誰も持たない、オリジナルの主旋律を8曲持っていた。それはすなわち、彼自身、この森の出身者でないことを暴いていたわけだ。
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鳥には帰巣本能があって、基本的には生まれた場所に戻ってくるが、少しはよそへ分散していく者もいて、遺伝的な交流がなされる。つまり血が濃くなりすぎないようにするしくみのようなものだ。鳥の場合、哺乳類とは反対に、メスの方が遠くへ分散する傾向がある。しかし、クロツグミの歌を聞いていると、20〜30羽のオスが繁殖する森に、毎年2羽程度は、よその曲を歌う鳥が交じっているから、オスも1割くらいは出入りがあるのかもしれない。
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当初、レモンはきっと渡りの途中であり、もっと北へ行くのだろうと私は思っていた。しかし、結局はこの森に定着して、つがい相手も得た。驚異だったのは、それからの3カ月、彼の歌のレパートリーの劇的な変遷だ[表1]。
レモンはこの森で最もメジャーな2曲、「キヨコ、キヨコ」と「チョッキー、チョッキー」を少しずつ歌えるようになっていく。6月から2曲の中間的な「キヨチョケー、チョケー」で猛レッスンを積み、7月下旬にはそれを何とか分離させて「キヨコ、コッキー」と歌えるようになる。8月には、やや下手くそながら「キヨコ、キヨコ」と「チョキー、チョキー」を別々に歌えるようになり、合格ラインに達した。そして、そうなる過程で、持っていた歌を少しずつ捨てていき、最終的にはその2曲しか歌わなくなったのである。
このように、生後一年を経ても、新曲を覚え自分のものにする、いわば再学習の能力があることがわかった。しかし、やはり大人になって新曲を覚えるのは並大抵のことではないらしく、レモンには、持ち歌のすべてを忘れてしまうほどの洗脳(?)が必要だったようだ。
さて、レモンはなぜ、そうまでして歌を変える必要があったかだ。レモンは若いオスだったが、そのため晩婚だったというわけではない。よその歌ばかり歌っていた時期に、もう結婚は成立していた。この年のF森はメスの方が多く、一夫二妻以上が最低2組あった。レモンの行動を見ていると、彼も、もしかしたら2羽のメスとつがいになっていた可能性すらあった。
なので、嫁が来ないからご当地ソングを歌わなければならない、というプレッシャーがあった可能性は除外したい。であれば、他のオスとなわばりを張り合うのに、共通する歌が必要だった可能性が残る。
鳥の歌合戦には「ソング・マッチング」という現象がある。この森のクロツグミでいえば、隣り合った2羽のオスが歌っているとき、ライバルが「キヨコ、キヨコ」で鳴けば、こちらも「キヨコ、キヨコ」で返す。相手が「チョッキー、チョッキー」と鳴いてくれば、こちらもそれで鳴き返す、というふうに。明らかに相手の歌を聞いていて、同じ歌をぶつけながら交互に鳴くことが非常によくある。
どの2羽のレパートリーもまったく同じではないから、自分の持っていない歌を出されたらどうするか。たとえば「ヒリヒリチョッキオー」と鳴かれたとき、自分がそれを持っていなければ、どうするか。こんな場合、似た曲「ヒリヒリキオー」で鳴き返すという対応を、即座にするのである。
こういうソング・マッチングを長年聞いていると、レモンの気持ちが少しわかるような気がした。この森でなわばりを持つには、この森流に鳴かないと、防衛力が弱まる、あるいは攻撃をくらってばかりなのかもしれないと思った。同種内での録音再生実験では、一般的に、よそ者の声を聞かせたときほど、なわばり主は強く反応して飛んでくるものだ(第1章8項参照。ただし、1500キロ以上離れた同種の歌には反応が弱いという、種分化の途上を示唆する例
もある)。レモンにしたら、「お隣さん」と見知ってもらい、境界のとりきめを穏便に済ませるためには、この地域の方言でかわすのが一番だったのかもしれない。つい擬人化してしまうが、もちろん彼がそう思っているのではなく、そのように順応する遺伝子を持った鳥ほど、また遺伝子を残しやすかった、という自然選択の結果と解釈していただきたい。
レモンのもう一つの特徴は、本当に独身だった春先を除いて、早朝にも独身モードの歌を聞かなかったことである。シーズンのほとんどを愛妻モードの歌だけで通し、独身のふりをしてガンガン歌うことがなかったのだ。これは、二つの解釈ができる。一つは、ひたすら他のオスのなわばりに黙って潜入し、浮気を狙う戦術だった可能性。もう一つは、歌の猛レッスンや、もしかしたら二妻のやりくりに疲れ果て、朝ぐらいゆっくりさせろと思っていた可能性。さて、どちらだったのだろう。
レモンは翌年はF森に帰ってこなかったから、その後、彼の人生と歌のレパートリーがどうなったかはわからない。
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米国のウタスズメでは、まねされたら次はそれを回避し、相手が持っていない歌をくり出すのがもっとも穏便で紳士的な(?)ライバル関係らしい。ソング・マッチングに関しては多くの研究があり、あえてマッチングさせない、という鳥もいる。クロツグミのようにレパートリーが多く、複雑な歌を次々と変えながらくり出す鳥と、シジュウカラのようにレパートリーが少なく、シンプルな歌をしばらく続ける鳥とでは、ソング・マッチングの意味が違う可能性もある。
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※ Web掲載にあたり、一部のコラムと引用文献表記を省略しています。
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