萩原編集長のヒマラヤ未踏峰挑戦記 Outlier East 7035m

025 キャンプ2へルート工作

Date 2013年10月03日(木)

10月1日にC1へ移動、10月2日はC2へのルート工作と、登山活動もいよいよ本格的な局面を迎えることになりました。長い間、キャラバンの話が続いて退屈されている読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、ここから登攀活動はいっきに急展開を見せますのでどうぞお楽しみに。とはいっても、通信環境、(特にソーラーバッテリー関係)のために更新が滞るかもしれませんが、その節はご了承ください。

 

本日、10月2日はC2予定地まで登攀用具の荷揚げとルート工作を行ってきました。メンバーは高所ポーターたちのほかに萩原・村上・本田の3名。他の隊員たちはC1にて待機となっています。

 

BCからしばらくガレ場を登ると、ブロークン氷河の舌端に到着。20~30mほどの厚さの氷が、谷底に向かって傾いでいる姿は見ものです。ここからアイゼンに履き替えて雪と氷の上を、クレバスを避けながら登高。正面にはアウトライアー東峰の巨大な南西壁が、まるで我々の行く手をさえぎるかのように高くそびえたっています。

 

今年は雪が多い! というのが第一印象でした。

 

今回、我々がルートとして選ぼうとしているのは、前回(2010年)と同様、東峰の肩に向かってせりあがる雪の斜面を詰め、懸垂氷河の左端からコルへと登り、国境稜線を頂上に向かうというラインです。雪面をルートに選ぶ以上、雪のコンディションが重要なのですが、前回の写真と比べると明らかに壁全体に着雪が多いようです。

 

ここのところ天気も朝だけがよくて午後には雲が湧き、霰を降らせるという周期が続いていますが、登頂予定日の10月10日前後にはなんとか乾季の晴天に恵まれたいものですね。

 

氷河末端付近を行く村上隊員
写真_氷河末端付近を行く村上隊員

 

クレバスを避けながら氷河地帯の迷路を行く
写真_クレバスを避けながら氷河地帯の迷路を行く

 

氷原の奥南西壁の取り付き手前付近をC2予定地とした
写真_氷原の奥、南西壁の取り付き手前付近をC2予定地とした。標高は5800m。右のドーム状のピークが今回目指すアウトライアー東峰で、右肩に向かって伸びる雪壁が今回の登攀ルート。懸垂氷河を左から回り込んだのち、稜線に向けて核心部となるミックス壁が待ち受ける

024 キャンプ1へ移動

Date 2013年10月03日(木)

10月1日、荷揚げもテント設営も無事終了し、いよいよ全メンバーがキャンプ1(以下、C1)に登る日がやってきました。各自、前回の荷揚げで運びきれなかった装備を肩にC1をめざします。

 

ここで私の誤算。通信用の器材や光学機械関係は自分で運びたかったので、PC2台にカメラ3台、そして双眼鏡と、あれこれザックに詰め込んでみたら軽く中国南方航空の重量制限23キロを上回る重さとなってしまいました。

 

見た目的にも実際にも、はるかに軽そうなザックをかつぐ他の隊員たちとともに、最後のほうからヨタヨタと歩いてなんとかC1入り。5600mは先日の高所順応で経験済みのはずなのに、オーバーワークがたたって一挙に高山病の症状が出て苦しみました。しかしなんとか夕食時にはリカバー。ジャガティスが作ってくれたおいしい和風カレーをお代わりすると、Sp-O2値も80台中ほどまで回復していました。

 

ここ、C1は標高約5600m。周囲を高峰に囲まれて通信は厳しいかと思いましたが、幸いにも東方の太平洋上にある衛星をつかまえることができて連絡が可能です。あいにく雲が低く垂れこめているため、めざすアウトライアーの姿は見ることができませんが、チベットとの国境にあたる氷河の山々を間近に見ると、本当にネパールの東の果てに来てしまった実感が湧いてきます。

 

ちなみにC1へのルートは、ブロークン氷河の右岸の台地をトラバース気味に登高。このあたりはおだやかな草原地帯がひろがっていて、エーデルワイスの群落はもちろんのこと、ブルーポピー(残念ながらドライフラワーで色はわからず)や、枯れそびれた(?)サクラソウが一輪だけ紫の花を咲かせているなど、苦しいながらも気持ちのいい登りでした。夏にはきっと素敵な花と緑の草原となっていることでしょう。ただし、重荷を肩にしたまま息を止めて花の写真などを撮っていると心拍数は爆発的に上昇! ここには平地の半分しか酸素がないことを実感させられます。

 

隊員たちのなかには、やはり新高度での不調を訴える者多数。明日は氷河を渡ってアウトライアー南西壁の基部にあたるC2への荷揚げですが、さて、大丈夫だろうか…?

 

高所ポーターさんのレベルにはまだまだかないません…
写真_いくら重荷を担いでがんばったといっても、高所ポーターさんのレベルにはまだまだかないません…

 

C1への途中で一輪だけ咲いていたサクラソウの仲間
写真_C1への途中で一輪だけ咲いていたサクラソウの仲間

 

ようやくC1に到着
写真_ようやくC1に到着。残念ながらアウトライアーは雲の中に隠れていた

023 ダバダーでない食後風景

Date 2013年10月02日(水)

高所での水分補給の重要性については誰もが知るところかと思います。で、食後の飲み物も大切な高山病対策のひとつ。日々、飽きないようにいろいろな飲み物を用意しているはずなのですが、入山前にカトマンズで知った驚愕の事実は、私以外にコーヒー好きはひとりもいない……ということでした。

 

そういえば5月の合宿に同行したときも、現役部員たちの食後の飲み物の選択肢のなかにコーヒーがなかった……。で、コイツはまずい! ぜったいに困る! ということで、カトマンズのスーパーで個人用のネスカフェを用意した次第です。

 

ネスカフェといっても、あの、「違いがわかる男」たちが、イヤミすぎるほどカッコよく出てくる宣伝で有名な「金色配合」ではなく、普通の「Classic」というヤツです。「違いを気にしない男」にとってはこれで十分でありまして、学生たちがミルクティーを飲みながら食後の「真剣しりとり1時間勝負」に興ずるなか、ひとり、コーヒー片手にこれを書いています。

 

食後のダバダーでない空間でブログを更新するハギワラ隊長
写真_食後のダバダーでない空間でブログを更新するハギワラ隊長

022 ステージ2へ

Date 2013年10月01日(火)

C1への荷揚げもほぼ終了し、明日(10月1日)、全員でベースキャンプからC1に上がります。ローナクへのトレッキングルートをステージ1とすれば、頂上アタックに向けてのルート工作、並びに荷揚げの期間がステージ2となり、登山計画のなかではほぼ中間地点といったところでしょうか。頂上に至るまで、もどかしいほどのペースに思われるかもしれませんが、これがオーソドックスなヒマラヤ登山スタイル。約1週間後の頂上アタックに向けて、今のところ当初の計画どおりに進んでいます。

 

昨日はC2の高度を経験するために、C1への荷揚げルートから裏手の山に登り、約5800m地点まで登ってきました。標高を上げるにつれ、BCの東にそびえていた6000m級の山々の背後から、恐ろしいほどの高さにカンチェンジュンガがその姿をあらわしました。世界第3位、標高8598mの存在感は、やはりタダモノではありません…。

 

しばらく5700m付近で滞在したのち、BCへ帰還。夕食時には、新しい高度を体験してきたせいか、高所の影響を受けて食欲不振な者が多数出ました。おぼえたてのネパール語「ワクワク ラギョ」(吐き気がするという意味)を連発しながらも、翌日からの新たなステージにワクワク(日本語の意味で)している隊員たちでした。

 

なお、ここ、BCでは西側の斜面が開けているため、インド洋上空の衛星を捕らえることができましたが、四方を高峰に囲まれたC1、C2からの通信の可能性は今のところ不明です。今後、しばらくブログの更新が途絶えることがあるかもしれませんが、ご了承のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 

C1へのルートの途中から高所順応のために標高5700m地点へ
写真_C1へのルートの途中から、高所順応のために標高5700m地点へ

 

姿を現わした巨大な峰カンチェンジュンガ
写真_姿を現わした巨大な峰、カンチェンジュンガ

 

岩陰にこんな花を見つけました
写真_岩陰にこんな花を見つけました

021 プジャ(安全祈願)

Date 2013年09月30日(月)

9月28日、今回の安全登山を祈願してプジャ(お祈り)が執り行われました。

 

ベースキャンプの裏手の丘に祭壇を作り、タルチョー(経文が書かれたカラフルな旗)を四方に張り巡らせた塔の下に、登攀で使用するピッケルやアイゼン、ヘルメットなどを並べます。それから香を焚き、祈りをささげ、全員でライスシャワーをヒマラヤの空高く放り上げて安全祈願。i_PODから流れる「オム・マニ・ペメ・フム」のお経を耳にしながら、おごそかに儀式は進められました。

 

本来は下の集落からラマ僧に来ていただく予定だったのですが、「26日から28日のどこかで行くからね」という約束だったにもかかわらず、最終日の今日になっても上がって来ず。仕方なくネパール人スタッフたちが手際よく儀式を進めて下さいました。祈祷料をひとり1500ルピーずつ払っているのに、ドタキャンもアリなのですね。まあ、ブロークン氷河の険しい岩場を登らされるラマ僧さんも気の毒とはいえるでしょうが。

 

ところで青山学院なのにラマ教のお祈りでいいの? ということはこの際、ほおっておきましょうね。いちおう、讃美歌や聖書の一節のコピーは常に持ち歩いており、お祈りをする体制だけは整えているのです。などと言いながらも、ザックの中には冨士浅間神社のお守りをこっそり忍ばせている隊長なのでした。

 

特設にしては立派すぎる祭壇の前で祈りをささげる隊員たち
写真_特設にしては立派すぎる祭壇の前で祈りをささげる隊員たち

 

タルチョーがはためきベースキャンプもにぎやかになった
写真_タルチョーがはためき、ベースキャンプもにぎやかになった

020 「三種の神器」なしには登れない

Date 2013年09月30日(月)

登山に関する「新・三種の神器」ということばがあります。20年前にはなかったもので、登山を快適にしてくれる3つの新たなアイテム、つまり、ストック、スポーツタイツ、アミノ酸を総称して名づけられました。アミノ酸をサプリメントと読み替えて「登山を快適にする三つのS」と説明することもあります(NHK BS-1 実践! にっぽん百名山では番組収録ではこちらのことばを紹介していました)。

 

じつはこれ、命名者は私なのです。『山と溪谷』の編集長をつとめていた2001年ごろに、「ストック、サポートタイツ、アミノ酸」を総称して「新・三種の神器」と話をしたのが、この言葉が世の中に広まったきっかけでした。実際に私自身、この三つのアイテムについては「ヘビーユーザー」として、それぞれが出た当時からずっと愛用しています。

 

ストックについては1990年代にダブルストックとして使い始め、ハイキングの本場、オーストリアのガイドに使い方などを教えてもらい、今やどんな山にも不可欠の存在として使用しています。かのヘルマンブールがナンガ・パルバットに単独で初登頂した際、ピッケルを頂上に残してストックで下りてきた歴史などを振り返ってみても、その有効性はヒマラヤ登山においても高いといえるでしょう。今回ももちろん、愛用の2本を持ってきていて、バテた隊員に貸し出すなど、大活躍しています。

 

サポートタイツの使用歴も、普通の人よりも長いほうです。こちらもやはり1990年代、スキー雑誌の副編集長をしていた時代に、デモンストレーターの間でワコールのCW-Xが流行っているのを見て、山で使い始めました。こちらも疲労の軽減とヒザ痛の予防に役立つことを実感し、以後、ヘビーな山行を中心に、3種類のタイツを使い分けています。

 

そして、この3種のなかで、もっとも疲労軽減の効果を実感できるのがアミノ酸です。アミノバイタルを初めて使ったときの驚きは今も忘れることができません。長年、山を歩いていると、「自分はここで必ずバテるはず」というポイントがありますが、アミノバイタル(当時、出たばかりのサンプル商品でした)を服用して登り続けると、いつものバテがいつまでたってもやってこない……。これはものすごく不思議な体験でした。

 

もともと単純な性格なので、かなりのプラシーボ効果(思い込みによる効き目)があったとしても、カラダは嘘をつけません。これはドーピングではないのか? と、真剣に思ったほどの効き目でした。以来、アミノバイタリスト(と最近は呼ばれるらしい)として、ふだんの山行でも欠かすことなく服用するようになり、今回の山行でも全隊員がアタック期間中に使える分だけ、大量のアミノバイタルを用意しているのです。


写真_ベースキャンプでアミノバイタルの仕分け中

019 感動のフリーズドライ食品

Date 2013年09月29日(日)

今回の遠征を支えてくれている食糧のなかに、アマノフーズのフリーズドライ食品があります。キャラバン中の食事は、「炎の料理人」ジャガティスの、心のこもった食事メニューをいただいていましたが、さすがに標高5200mを越えると油料理は厳しい・・・。

 

で、BC以上での食事用に用意させていただいたのがアマノフーズのフリーズドライ食品でした。酸素の薄い高所で、頭痛をがまんしながら食べた「にゅうめん とろみ醤油味」の、なんと胃袋にやさしいこと。そして、フリーズドライとは思えないほどの完成度の高い味噌汁の数々。ビーフシチュー、クリームシチュー、香るチキンカレー、そして毎回、全員が配給を楽しみにしていたお汁粉。

 

長期の遠征では、胃腸の調子が成功のカギを握るといっても過言ではありません。その点において、今回はパワーの源として、食べやすくおいしい食事をたっぷりといただけるのはありがたいことです。なかでも底なしの胃袋を持つ学生たちは、雑炊プラス麻婆丼の素などという複合技を駆使しながら大量消費を続行中。頂上アタックまでになくならないよう、配給制限が必要になる日も近いかもしれません。

 

気圧の関係でパッケージはこんなにパンパン……
写真_標高5200mのB.Cでは、気圧の関係でパッケージはこんなにパンパン……

大量のごちそうを前に喜ぶ現役部員たち
写真_大量のごちそうを前に喜ぶ現役部員たち

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